8月29日は2000(平成12)年三宅島2000年噴火の8.29火砕流があった日

2021.8.28

三宅島の噴火

 三宅島は1986年噴火に続き,2000年にふたたび噴火しました.噴火の始まりは2000年6月末の海底噴火で,7月には陸上部で噴火が開始され,カルデラが形成され,大量の火山ガスが出るようになって,住民は全島避難となりました.

 千葉達朗氏が三宅島2000年噴火について,特に同年9月から住民の全島避難にいたる寸前に起こった,8.29火砕流を当日に経験された様子を自身の掲示板「ある火山学者のひとりごと」に書いています.

写真 2000年8月29日早朝に起きた火砕流 撮影:千葉達朗氏
写真 2000年8月29日早朝に起きた火砕流 撮影:千葉達朗氏

 このような三宅島2000年噴火は,それ以前の三宅島噴火とは全く噴火のタイプが異なります.

 

噴火の歴史

 三宅島は歴史時代に合計15回の噴火をしたと考えられていますが,1983年噴火の特集号に載っている宮崎 務さんの論文を参考にすると,

《》内は噴火間隔

1085年噴火
《69年》
1154年噴火
《315年》
1469年噴火
《66年》
1535年噴火
《60年》
1595年噴火
《48年》
1643年噴火
《69年》
1712年噴火
《51年》
1763年噴火
《48年》
1811年噴火
《24年》
1835年噴火
《39年》
1874年噴火
《66年》
1940年噴火
《22年》
1962年噴火
《21年》
1983年噴火
《17年》
2000年噴火

 

というように非常に短い時間間隔で噴火を繰り返してきました.この,約1000年間の活動は,最後の2000年とは噴火のタイプが非常に異なります.

 

宮崎 務・中村一明・荒牧重雄・早川由紀夫(編)(1984)三宅島の噴火 1983年.火山,第2集29(2) 特集号,日本火山学会,352p.

 

2000年噴火

 2000年噴火の特徴は,

 

1.この噴火が山頂火口からの噴火であり、カルデラを形成したこと.

2.大量の火山ガスの放出が長期にわたりあったこと.

3.噴火の始まりは海底噴火であったこと.

4.地震活動が広域の岩脈の活動を示唆していたこと.

 

 などで,それ以前の噴火が山頂から海岸部に伸びる割れ目噴火や沿岸部における割れ目噴火が多かったのとは対照的です.最近千葉達朗さんが「ある火山学者のひとりごと」に2000年噴火の8.29火砕流が発生した当日の経験などをまとめています.こうした生々しい経験やどんな噴火が起こったのかを示す画像は非常に貴重なものです.この噴火が大きな契機になり全島避難につながりました.

 

噴火の経緯

2000年6月26日 地震活動が始まる

18時30分頃〜 三宅島南西部を震源とする小さな火山性地震が始まる.

21時半頃〜 震源は島の西部に移動.

 

6月27日 海底噴火が発生

震源,西方の沖合へ移動.

西方沖1km付近で変色水,海底地形観測により付近に割れ目やクレーターを確認,潜水調査で新鮮な噴出物が発見されたことから,海底噴火と推定された.

新島、神津島近海で活発な群発地震活動(最大マグニチュード6.5,震度6弱)となる.

 

海底噴火後は三宅島の地震活動は低調,傾斜計やGPS等のマグマの動きを示す地殻変動のデータに変化傾向に鈍化.

 

7月4日頃〜 地震の活発化

再び三宅島の雄山山頂直下を震源とする地震が活発化.

 

7月8日 山頂陥没を伴う噴火

18時41分頃,山頂で小規模な噴火.雄山山頂付近に直径700〜800mの円形の陥没地形が形成された.

 

7月14日 本質物質を含む大噴火

山頂で大規模な噴火.噴出物には本質物質が含まれ,大量の降灰があった.

 

8月3日 カルデラ徐々に拡大

直径1.5km,深さ450mのカルデラを確認.

 

8月10日 大規模噴火

山頂で大規模な噴火が発生.噴煙の高さが3000〜8000mに達した.

 

8月半ば 山頂陥没の進行,マグマ貫入による群発地震

山頂陥没は徐々に進行,直径約1.5㎞深さ450mに達した.三宅島と神津島の間の海域ではマグマ貫入による大規模な群発地震. 

 

8月18日 噴煙高が14㎞に到達

 噴煙の高さが14000mに達する噴火.西側山麓で厚さ10cmの降灰があり,中腹では50cmの噴石,山麓でも5cm程度の火山礫が落下。

 

8月29日 火砕流の発生

低温で低速の火砕流が発生,山頂から北東側に5km,南西側に3km,北東側は海にまで達した.雨による泥流も頻発.

ある火山学者のひとりごと「2000年8月29日5時50分に発生した火砕流」https://web.archive.org/web/20050310172305/http://www.geo.chs.nihon-u.ac.jp/tchiba/miyake/0829/index.htmに詳細な経緯が書かれています.火砕流の連続写真が見られます.ぜひご覧ください.

 

 

9月1日 全島避難決定

1日当たり数万トンを超える有毒な火山ガス放出が始まり,約4000人の島民による全島避難決定.

 

********************(4年半後)*********************

 

2005(平成17)年2月1日 避難指示解除

火山ガスの放出量が低下し避難指示が解除された.

参考

サイト

主な文献

  • 千葉達朗(2008)細粒火山灰.三宅島火山噴火災害の復興に関するシンポジウム-委員会活動報告および三宅島2000年噴火に関する論文集-,3.
  • 伊藤弘志(2000)三宅島火山マグマ供給系の進化.安山岩質マグマの爆発的噴火を中心とした火山の噴火様式と噴火機構に関する研究,23-27.
  • 気象庁火山課(2002)三宅島火山噴煙観測結果 (2000年9月〜2001年5月).火山噴火予知連絡会会報, (78),109-112.
  • 気象庁火山課(2002)三宅島における二酸化硫黄 (SO2) 放出量の観測 (2000年9月-2001年5月).火山噴火予知連絡会会報,(78),113-115.
  • 国土地理院(2002)三宅島2000年噴火にともなう伊豆諸島の地殻変動.火山噴火予知連絡会会報 気象庁, (78),41-48.
  • 中山聡子(2008)三宅島2000年噴火によって形成された火山豆石.三宅島火山噴火災害の復興に関するシンポジウム,5-16.

雑誌「火山」に掲載されたもの(予稿集は除く)

  • 坂東信人・仮屋新一・木股文昭・中尾 茂・及川 純・渡辺秀文・鵜川元雄・藤田英輔・河合晃司・松島 健・宮島力雄・奥田 隆(2005)GPS観測による2000年7月14日三宅島噴火に伴う地殻変動.火山,50,173-182.
  • 藤田英輔・鵜川元雄(2000)三宅島で発生した深部低周波地震.火山,45(5),295-299.
  • 下司信夫・嶋野岳人・長井雅史・中田節也(2002)三宅島火山2000年噴火のマグマ供給系.火山,47(5),419-434.
  • 下司信夫・篠原宏志(2010)三宅島火山の連続脱ガスに伴う小噴火噴出物に含まれる玄武岩本質物から推測する火道内マグマプロセス.火山,55,241-250.
  • 浜口博之 (2003) 第6次火山噴火予知計画で何がわかったか (< 特集> 第4回火山噴火予知研究シンポジウム).火山,48(1),79-86.
  • 金子隆之・須藤 昇・下司信夫・嶋野岳人・長井雅史・中田節也(2001)RADARSAT画像による三宅島2000年陥没カルデラの地形解析.火山,46(4),205-209.
  • 宮城磯治・東宮昭彦 (2002)三宅島2000 年火山灰粒子の特徴と本質物の特定.火山,47(1),27-31.
  • 宮城磯治・東宮昭彦 (2003)色変化に基づく火山灰加熱温度の推定:三宅島火山2000年8月18日火山弾の着地温度への適用.火山,47(6),757-761.
  • 宮崎 務・中村一明・荒牧重雄・早川由紀夫(1984)三宅島の噴火 1983年.火山,第2集29(2) 特集号,日本火山学会,352p.
  • 澤田可洋(2005)2000年8月18日の三宅島噴火による航空機と噴煙の遭遇.火山,50(4),247-253.
  • 新堀賢志・津久井雅志・川辺禎久(2003)最近1万年間における三宅島火山マグマ供給系の進化.火山,48,387-405.
  • 寺田暁彦・井田喜明・大湊隆雄(2003)Windows PC を用いた自動撮影システムによる三宅島火山噴煙の観測.火山,48(6),445-459.
  • 土岐知弘・角皆 潤・蒲生俊敬・皆川昌幸(2003)海水中のメタンを指標に用いた三宅島周辺海底における火山活動調査の結果について.火山,48(1),63-67.
  • 植田義夫(2006)三宅島の3次元磁気構造と2000年噴火によるその変化.火山,51(3),161-174.
  • 山科健一郎((2003) 2000年三宅島火山噴火の活動予測の試み:噴火に先立つ山体のふくらみの検討.火山,48(1),35-42.
  • 安田 敦・中田節也・藤井敏嗣(2001)三宅島2000年噴火噴出物のガラス包有物に言已録されたマグマのS濃度とfO2環境.火山,46(4),165-173.