富士山ハザードマップの改定

更新2021.04.07

 3月26日,富士山のハザードマップ改訂版が発表されました.

 

 2000年10月頃から富士山の直下で低周波地震が多発したのを機に,2004年(平成16年)6月に富士山ハザードマップ検討委員会によりハザードマップが策定・公開されました.その後富士山の過去の噴火の様子など様々な調査・研究が進み,被害はもっと広範囲に及ぶ可能性が出てきました.そこで富士山火山防災協議会では,平成30年から「富士山ハザードマップ(改訂版)検討委員会」を設置しハザードマップの見直しを進め,この度改訂版を発表しました.

 

 改訂版ハザードマップの大きな変更点は,対象噴火年代,想定火口範囲,地形メッシュサイズ,溶岩の噴出量の4点です.

 

1.対象噴火年代

 改定前のハザードマップでは,3200年前から現在までに発生した噴火の情報を基にして検討が行われました.これは宮地(1988)で示された新富士火山の活動期(約11,000年前から現在)を5つの噴火ステージに分けたうちの,ステージ4・5に相当します.この頃の噴火の特徴は山頂付近の火口からの比較的規模の大きな火砕物噴火(ステージ4)から, 山腹の火口からの火砕物噴火及び溶岩流噴火(ステージ5)となっており,これらのステージの噴火事例を対象にしていました.

 一方改訂版では,2014年発行の富士火山地質図(第2版)に基づき再設定された富士火山の噴火年代区分を採用して対象噴火年代を設定しています.この区分によると,過去1万年の間では約5,600年前以降が特に噴火活動が活発であったとされるため,改訂版では5,600年前以降を対象としました.

 

2.想定火口範囲

 改定前のハザードマップでは約3200年前以降の比較的規模の大きな噴火を起こした火口に注目して想定火口範囲を設定していました.

 一方,最近の研究によるとおよそ5,600年前以降,富士火山では約180回もの噴火が確認されていて,このうち96%が小~中規模の噴火だということです.

 富士山の噴火は必ずしも山頂火口から発生するわけではありません.特に小~中規模の噴火の多くは側火山や割れ目火口といった山腹斜面にある火口から噴火します.しかし,富士山の山腹は青木ヶ原の樹海がそうであるように木々に覆われていたり,足元がデコボコしているため調査が難しく,未知の火口が多く潜んでいました.

 そんな未知の火口の発見に貢献したのが赤色立体地図(千葉・鈴木,2004など)です.赤色立体地図によって丸裸にされた富士山の山腹斜面には,従来発見されていなかった多くの割れ目火口や側火山が発見されたのです.

 一方山頂付近は火砕物が厚く堆積しているため,過去に噴火した火口が埋もれてしまっている可能性があります.

 そこで改訂版のハザードマップでは安全を考慮して山頂から半径4km以内の全域と,新たに追加された中~小規模噴火の火口から半径4km以内の全域を想定火口範囲として設定しました.

 

3.地形メッシュサイズ

 航空測量成果やシミュレーションプログラム及びそれに供するコンピュータの性能は年々向上しています.

 そこで,溶岩流・火砕流・融雪型火山泥流のシミュレーションに用いる地形メッシュを従来よりも細かい20mメッシュDEMに変更し,従来よりも精緻な地形モデルを用いた各現象のシミュレーションを行うことが可能になりました.

 

4.溶岩の噴出量

 これまでのハザードマップで採用されていた大規模噴火の溶岩流の噴出量は 7億m3 でありました.これは宮地・小山(2002)で求められた宝永噴火(西暦1707年)での総噴出量に基づいたものです.

 その後の研究で,貞観噴火(西暦864~866年)で噴出した溶岩の噴出量を求めるために,貞観噴火の際に青木ヶ原溶岩によって埋め立てられた古代湖「せのうみ」の最深部と推定される位置で行われたボーリング調査が行われました.

 その結果などから,貞観噴火で噴出した溶岩の噴出量が13億3に及ぶことがわかったため,改訂版ではこの値が採用されました.    

 

 火山現象(溶岩流,火砕流,融雪型火山泥流)の到達時間・範囲を表すドリルマップは,発生地点や規模ごとに600枚以上に及びます.これらを基に,より地域の情報に結びついた細やかな防災・避難計画や防災マップが作成されることが期待されます.

 

 報告書全文は下記で公表されています.活火山である富士山が次いつ噴火するかはわかりません.いざというときに備えて,個人個人で理解を深めていきましょう.

 

令和2年度第11回富士山火山防災対策協議会資料(静岡県公式ホームページ ふじのくに>静岡県危機管理部危機情報課>富士山火山防災対策)

富士山火山防災対策協議会(山梨県公式ホームページ>防災情報>>総合情報)

 (Y.S.)

 

引用文献

千葉達朗・鈴木雄介(2004)赤色立体地図-新しい地形表現手法-.応用測量論文集,15,81-89.

宮地直道(1988)新富士火山の活動史,地質学雑誌,94(6),433-452.

宮地直道・小山真人(2002)富士山宝永噴火の噴出率の推移.地球惑星科学関連合同学会2002年度合同学会予稿集,V032-P024