・九州北部豪雨について

1.九州北部豪雨について

遠藤邦彦

 7月5日は2017年九州北部豪雨があった日です.

 

 この日,九州北部の福岡県朝倉市,久留米市,佐賀県鳥栖市,大分県日田市にまたがる一帯に,積乱雲が次々に発生する線状降水帯が停滞し,朝倉市では1時間降水量169㎜,9時間降水量778㎜を記録しました.このような豪雨が上記地域の北側の山地に一気にもたらされ,筑後川の支川を流下し,支川に沿う地域及び本川沿いに大きな被害をもたらしました.2014年8月の広島豪雨,2015年10月に鬼怒川等を襲った関東・東北豪雨に続く豪雨災害で,特にその記録的な豪雨とその発生メカニズム、および伴われた災害は注目されました.同時に長く記憶にとどめるべきものとなりました.

 

 この災害の特徴や今後に学ぶべきことについて,当時現地で調査にあたられた現在関西大学の黒木貴一さんにご寄稿をお願いしました.以下にご紹介いたしますので,詳細をご覧ください.快くご寄稿下さった黒木さんには心から御礼を申し上げます.

 

[追記]

 この記事を掲載する準備をしていた7月4日には,九州の熊本県,鹿児島県を中心に記録的な豪雨が発生し,大きな被害が出ています.特に人吉盆地から八代市で八代海にそそぐ球磨川に沿って各所で氾濫が起きています.磯会員からは,球磨川は人吉盆地より下流は狭い峡谷部を延々と流れるため,人吉盆地から下流の狭窄部に入るところで球磨川の水位は上昇しやすく,峡谷部では危険個所が多いとの情報が寄せられています.関連情報が入りましたら「地盤なう#気候・気象(旧:防災・環境)>2020年7月3日からの豪雨」に掲載していきます.

2.九州北部豪雨

黒木貴一(関西大学)

写真1 大規模な斜面崩壊の例
写真1 大規模な斜面崩壊の例

 九州北部豪雨は2017年7月5日に発生し福岡県朝倉市を中心に多くの被害が出ました.この時の死者は福岡県と大分県で40名でした.山地では多数の斜面崩壊と土石流,平野では土石流や氾濫による大きな被害となりました(黒木ほか,2018;日本応用地質学会,2018).

写真2 微地形と氾濫被害の差
写真2 微地形と氾濫被害の差

 山地では片岩に起因する崩壊や地すべり(写真1)が,平野では微地形による氾濫被害の差(写真2)が目立ちました.またこの平野での土砂堆積の広がりは,黒木ほか(2018)で国土地理院の写真解析から示され(図1)ています.図1では北東にある山地から谷を通じて平野に排出された氾濫水が,古い筑後川の流路を西に辿りながら合流点の所で現在の筑後川に達する姿が大変鮮明になっています.

図1 空中写真でみた土砂の分布
図1 空中写真でみた土砂の分布

 

 この豪雨時に,まず注目されたのは線状でかなり狭い範囲で,長時間継続した強い降雨で,その強い強度の場所を赤く示す気象庁の示すレーダー画像は印象的でした.この降雨は,豪雨を降らせる積乱雲が連続して発生し線状に並ぶという「線状降水帯」の発生と関連付けられてテレビ等報道では説明されました.ちなみに,その中にあった朝倉市では7月5日だけで約520mm,隣接の東峰村では非公式ながら約760mmを観測しています.

 

写真3 橋桁に残された流木
写真3 橋桁に残された流木

 公的機関による初動調査に目を引くものがありました.国土地理院は,空中写真撮影と崩壊や氾濫の判読,UAVによる被災地の近接撮影も行い,その成果を数日中に地理院地図に掲載しました.その地理情報は,その後の詳細調査の方向性を決定づけることになりましたが,特に上空から俯瞰する画像に,マッチ棒のような,樹皮が失われた多数の流木(写真3)が至る所に止まる姿に注目が集まりました.

 

 この流木による被害拡大も話題になりました.停止した流木が障害となり上流の水位上昇,流木の建物等への直接被害,流木の耕地に侵入による復旧障害などです.戦後の造林政策で生まれた杉檜の人工林がその起源ですが,安価な外材の輸入もあり適齢の樹木が伐木されず,伐木後の植樹機会も乏しく,樹木は成長する一方だったことも流木被害を目立たせたと考えられます.

 

 また公的機関では国土交通省九州地方整備局が発災前2017年1月と発災後9月に取得した1mグリッドDEMを災害調査に提供されたことも素晴らしいことでした.災害前後の標高変化を詳細かつ高精度に図化できており,研究や復旧活動に活用できる何ものにも代えがたい情報になっています.

 

 この提供窓口は九州大学平成29年7月九州北部豪雨災害調査・復旧・復興支援団でしたが,それ以外にも,この災害に対し土木学会,地盤工学会,砂防学会,日本応用地質学会など多数の学協会が調査組織を立ち上げ,多くの視点でこの災害の真相に迫っています.しかも日本学術会議公開シンポジウムを通じて各情報共有も図られ,また調査組織は被災地に対するアウトリーチの調査報告会も開催しました.

 

 この災害調査の結果,防災・減災への課題も見えてきました.第一に,浸水被害は平野の微地形で説明できる一方で,山地内の谷底平野の被災有無が何の地形条件に由来するか判然とせず,治水地形分類図やハザードマップが災害実態を十分に示せていない現状が見えました.逆にこれほどの被災の中でも安全だった土地条件の謎も残っています.加えて交通遮断,情報断絶,責任者不在の中で対応を迫られた生徒児童の緊急避難,サバイバル,下校,心理ケアなどの学校防災にも関心が高まりました.

 

 一つの災害を対象に,これほど新しい見方や対応が様々に出た機会は,他に余り思い当たらず初めてだったのではないでしょうか.つまり九州北部豪雨での災害調査では,それ以前に比べ別次元にあった災害認識,調査・還元手法がそろって適用されて,その時点から自然災害調査が新時代型に移行したように見えてます。それが2017年7月5日でした.

 

参考文献

  黒木貴一・磯望・後藤健介(2018)2017年九州北部豪雨による北野平野の土砂堆積と地形.第9回土砂災害に関するシンポジウム論文集,73-78.

  日本応用地質学会(2018)2017年九州北部豪雨災害調査団報告書.190p.

 

3.20170705九州北部豪雨の総観気象場からの再検討

山川修治(日本大学)

 2017年7月5日九州北部豪雨に関する解析結果が山川修治さんから届いていますので,ここに掲載します.

 今年も7月4日以来,熊本県、鹿児島県,長崎県・福岡県と場所を移しながら記録的な大雨が発生しているところです.くれぐれも安全第一にお過ごしください.

(遠藤)

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4.線状降水帯

遠藤邦彦

 福岡県朝倉市などに大きな被害をもたらした2017年九州北部豪雨は,積乱雲が線状に次々と形成されるため, 結果的に積乱雲からもたらされる豪雨が長時間継続することになる,線状降水帯 に注目が集まった激甚な災害でした.その前に2014年に広島豪雨,2015年に鬼怒川などを襲った関東・東北豪雨に続いて発生したもので,線状降水帯に関する関心が一層強まり,その現象の正確な把握,発生メカニズム解明の必要性が強く認識されるきっかけとなりました.

 

 この豪雨では,佐賀県から福岡県、大分県にわたって長い線状降水帯が発生し,朝倉市では9時間の累積降水量は778㎜を記録しました(1時間降水量は169㎜).今年もこのように激しい線状降水帯の発生は避けられないと思われますので,過去の経験に学びながら如何に対処すべきか、日頃から考える必要があると思います.

 

 

 2020年7月九州豪雨の記事に現地にお住まいの磯会員からの報告や,様々な画像やグラフを使って過去類例との比較した山川会員による解説があります.合わせてご覧ください.

 

2020年7月3日からの豪雨(地盤なう>気候・気象)

 

外部リンク

平成29年7月5-6日の福岡県・大分県での大雨の発生要因について ~上空寒気による不安定の強化と猛烈に発達した積乱雲による線状降水帯~(気象庁HP)

平成29年7月九州北部豪雨及び6月7日から7月27日までの梅雨前線等による大雨等(気象庁HP)

「平成29年7月九州北部豪雨」の発生要因について- 線状降水帯の形成・維持メカニズム -(気象庁気象研究所HP)